BNCTはがん細胞に特異的に取り込まれるホウ素(10B)化合物を投与し、体外から中性子を照射することでホウ素と中性子が反応して生じるα線とLi原子核によってがん細胞を選択的に破壊する治療法で、原子炉中性子源を用いて1951年に米国で実施後、日本では1968年から臨床研究が行われてきました。
CICSは、国立がん研究センターと共同研究契約を締結し、2014年の中央病院診療棟の完成とともに加速器型の中性子捕捉治療装置を導入してこれまで非臨床試験を行ってきました。
本試験は、加速器中性子捕捉治療装置「CICS-1」とホウ素薬剤「SPM-011」を用いたBNCTの安全性及び忍容性を検討することを目的としています。
【本試験の概要】
治療対象
本試験の対象は皮膚がんの一種である悪性黒色腫と血管肉腫の患者さんです。病理組織学的に診断され、皮膚原発でありリンパ節転移や遠隔転移がない患者さんが本試験の対象となります。
悪性黒色腫及び血管肉腫の治療は、症状や進行の程度に応じて、外科的手術、薬物治療、放射線治療などが行われます。一般的に優先されるのは外科的手術によってがんを切除する方法ですが、広範囲の切除は患者さんの大きな負担となるため、現在でもより治療効果を高め、副作用を軽減して患者さんの負担を少なくする治療法を確立するための研究が行われています。
BNCTについて
BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)はがんの放射線治療の一種であり、ホウ素(10B)の中性子捕獲による核反応10B(n,α)7Li を利用します。がん細胞に特異的に取り込まれるホウ素(10B)化合物を投与することで、がん細胞内にホウ素(10B)を選択的に取り込ませ、体外からエネルギーの低い中性子を照射します。このとき、ホウ素(10B)原子核が中性子を捕獲して核反応10B(n,α)7Liを起こし、α線とLi原子核が放出されます。これらの粒子の飛程はそれぞれ約9 μm及び約4 μmと短く、細胞1個分の大きさに相当します。これらの飛程により、それぞれが持っている全エネルギーをがん細胞内において失うため、周囲の正常細胞に影響を与えることなくがん細胞を選択的に死滅させることができます。
SPM-011について
SPM-011は、ステラファーマが創生したBNCT用ホウ素薬剤(一般名:ボロファラン(10B))です。従来の臨床研究では溶液の不安定さに問題を抱えていましたが、SPM-011は、溶解補助剤を工夫することにより、この問題を解決しました。また、SPM-011には、ステラファーマの親会社であるステラケミファ株式会社が有する、国内で唯一の10Bの濃縮技術による濃縮率99%以上の10Bを使用しています。
CICS-1について
CICS-1は、株式会社CICSが開発した加速器型の中性子捕捉治療装置です。RFQ(高周波四重極)直線加速器で加速した陽子をリチウムターゲットに衝突させることで中性子を生成するもので、人体への悪影響の大きい高速中性子の混在が少ないことが特徴です。また生成する中性子のエネルギーが800keV以下と低いため、BNCTに適した10keV程度のエネルギーに減速するための減速体系の小型化が可能となりました。